看却下(かんきゃっか)今を生きる
私はテレビを好んで見るほうではないが、だからこそ、偶然出会った番組でいたく感動し、大変満足することがある。NHKで放映された“まいにち養老先生、ときどき まる 「春を歩く」”は「バカの壁」で有名な養老孟司先生の日常を、まるで時間がストップしたようにゆったりと、まったりと追っていた。見ている側も養老先生の日常にす~うっと溶け込んでいくような錯覚に陥った。しかしさすがに超一流の知識人、それとなく発しておられる語りの中には、心に刻んでおきたい人生哲学がぎっしり詰まっている。 「学問とは学ぶと自分が変わる。前の自分が死んで新しい自分が生まれる。その経験を繰り返していれば、本当にある日死んだとしても別に驚くことはないだろう」
個人的なことであるが、「学ぶ楽しさ」を日々実感している。これは、自分が何も知らないことを日々痛切に感じているからであろう。さて、学問とはいったい何であろうか。辞典を引いてみると「学び習うこと。学校へ通ったり、先生についたり、本を読んだりして、新しい知識を学習すること。また、身に付けた知識」とある。知識とは何であろうか。「知ること。認識・理解すること。考える働き。知恵。哲学では客観的認識」などと説明してある。であれば、人は学問をしながら、昆虫が幼虫から蛹へ、羽化して成虫になるように脱皮を繰り返しながら成長していく、人間の成長(悟り)への道のりであろうか。養老先生の齢(よわい)八十二歳のこれまでの学問の継続が、「養老先生は人生を達観しておられる」と、視聴者をうならせるのであろう。
私に響いたもう一つの番組は「心の時代 禅の知恵に学ぶ」(NHKEテレ)で放映された山川宗玄師家(岐阜県美濃加茂市正眼寺)のご紹介された「看却下」という言葉である。その言葉の意味を辞書で引いてみると、自分の足元を見よ、という意味の漢語で、転じて「足もとに注意せよ」「履物を揃えて脱げ」といった意味合いで、さらに「己の立脚するところを見失うな」、「常に自戒せよ」と記載されている。辞書の説明だと訴えかけてくるメッセージが弱い。山川宗玄師家は「看却下」をこれまでの修行僧としての自分の経験に引き付けて語っておられる。托鉢、火を起こしての食事の支度、薪割り、掃除等と修行僧の毎日は身体、手足を使って精一杯生きている。翻って、今のわれわれの生活は、移動には車、スイッチ一つでほとんどのことができる便利な世の中であるので、社会生活では手足、身体をあまり使わなくても生きていける。山川宗玄師家(しけ;禅の修行を終えた人で、僧堂において雲水の修行を指導する僧人)は、「身体を使って生きることで、今、この瞬間を生きていると実感でき、今があること、命があることを実感できる。身体、手足を使って精一杯今を生きていることが人を変える」と、淡々とお話になっている。
今の社会はネットでショッピング、ネットでゲーム、ネットでスポーツ、ネットで仕事(テレワーク)、ネットでおしゃべり(ライン)など、枚挙にいとまがないくらいのネット社会であり、リアルな他者との接触が少なくなっている。社会学者の見田宗介氏は『現代社会はどこに向かうか』で、リアリティ(生きている、存在しているという実感)の欠如した現代社会がリアリティを回復するには、「何らかの形でリアルな他者との接触があって、かつ人から必要とされるということがどんなに素敵なことかということを体験するようなチャンスが必要である」といったことを書いておられる。ネットでの生活空間の拡張はますます個々人を空虚な存在として突き付けてくるかもしれない。だからこそ、「看却下」という言葉をそばに置き、「今、この一瞬一を生きている」と五感で実感できるそういう日々を送りたいと思う。
参考辞書:デジタル大辞泉 Weblio辞書
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この樫の木は英国人の友人アンから届きました。樹齢400年はあるそうです。アンの裏庭の近くにそびえたっているそうです。樫の木は軍神の神とされ、妖精が住み、幹に触れると病気が治るともいわれているそうです。この樹の牽牛・強靭さは英国人の精神を代表する木として、米国人のhickory(ヒッコリー;クルミ科の広葉樹)と対比されるそうです。*ジーニアス英和辞典参照
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