再考;それでも原子力発電が必要でしょうか

 新型コロナウイルス感染症の世界的大爆発で、われわれは想定外の生活を強いられている。一刻も早いワクチン開発に、国家間の壁を超えた連携で取り組んでほしいと願うばかりである。ヒト・モノの移動がこれまでにない速度で、大量に、かつ地球規模でなされている現代社会においては、われわれが抱えている様々な課題も一国での取り組みではなく国家間で、政治家任せではなく個人レベルにまで近づけて解決に当たらねばならないと考える。当然のことながら当面の最大の課題はこの感染症をどのように封じ込めるかであるが、しかしながら、地球温暖化対策の遅れ、原子力発電から再生可能エネルギ―への方向転換が遅々として進まない現状、核による抑止力に依存した国防戦略への傾倒等、政治家任せにしておけないものばかりである。

  さて、ここ数日の新聞で少し明るい話題といえば、みずほフィナンシャルグループの「温暖化ガスの排出量が多い石炭火力発電所向けの新規融資をやめる」、三井住友フィナンシャルグループの「新設の石炭火力発電所への投融資などの支援は原則行わない」などであろうか。2015年に採択された国連の呼びかけによる持続可能な社会(sustainable development goals; SDGs)への目標達成のための企業の社会的貢献の一つであろう。日本は石炭による発電割合が約35%、英国はおよそ9%であり、2025年までには廃止するという計画で動いている状況を鑑みると、日本の温室効果ガス削減への取り組みの弱さがわかる。地球温暖化防止のための国際ルール「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇をできれば1.5度に抑えることを目標にしているが、日本は「2030年度までに13年度比で26%減」というわずかな削減目標を国連に提出している。福島第一原発事故以来、原発の新設はもとより、再稼働が進まない状況であり、どうしても火力発電に依存している日本のこの状況は悩ましいが、「原発頼みから再生可能エネルギーに舵を切ろう」という世論はなかなか盛り上がってはこない。ドイツの哲学者ハイディッガーはすでに1955年に、本当に不気味なことは世界が技術的な世界になることではなく、近い将来に地球上のどの個所にも原子力発電所が建設されていくであろうこの事態に、我々がこのことを考えないことであると、警告している。科学技術の進歩は不可逆的であり、使わないことは考えられないのだから、「然り」と受け入れ、そして技術が我々を「独占」するようになってきたら「否」と言うことであると、ハイディッガーは原子力のような技術とのかかわり方を示している。

 福島第一原発の膨張し続ける事故処理費用、処理にかかる途方もない歳月、トリチウムという放射性物質を含んだ処理水の行き先、さらには福井県敦賀市にある高速増殖原型炉もんじゅの廃止にかかる費用等、原子力発電依存のエネルギー政策は国民が一丸となって考えなければならない最重要課題であろう。ましてこのような費用の一部が再生可能エネルギーや省エネなどの財源、電気料金への上乗せで賄われるようなことがあってはならない。

 核融合という太陽で起こっている核分裂反応を原子炉で生じさせている、この科学技術は自然界への冒涜ではなかろうかと私は思う。原子炉が動き始めると大量のプルトニウム(自然界に存在しない人工の放射性元素)が核廃棄物としてどんどん増えていく。自然に存在する元素では最も重たい原子である原子番号92番のウラン(U)、人工的に作られた元素94番のプルトニウム(Pu)、どちらからでも核分裂を起こし原子爆弾が製造できる。われわれは原子力の危険性について考える時ではなかろうか。

  新型コロナウイルス感染症は世界規模で経済活動を麻痺させ、われわれの消費活動は生活に必要な物資が主となり、消費活動が大幅に制限されている状況である。今こそ、経済優先の社会の在り方を考える時期であろう。社会学者の大澤真幸氏は「人間は『まだ何とかなる』と思っているうちは、従来の行動パターンを破れない。破局へのリアリティーが高まり、絶望的と思える時にこそ、思い切ったことができる。この苦境を好機に変えなくては、と思います」と語っている。

 参考図書:国分功一朗『原子力時代における哲学』晶文社

      大澤真幸 朝日新聞2020年4月8日 オピニオンより 

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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