新芽にあやかって、とりとめもなく………

 英国の友人たちから春便りが届きました。やっぱり話題は新型コロナウイルス感染症ですが、英語ではCOVID-19と表記します。〝coronavirus disease 2019″を短くした形です。 キャロラインはこの世界的状況を‟It almost seems surreal.” 超現実的だと表現しています。さらにこのように続けています。They say ‘the veneer of civilization is very thin’ ,I think it was Jean Paul Satre who said. Veneerはベニア板(うわべをよく見せるための化粧板)civilizationは文明のことですから、「うわべだけの文明は薄っぺらだ(実質がない)」とサルトルは皮肉っているのでしょう。文明といえば、進歩と連想しますが、文明の進歩のパラドックスをサルトルはすでに見抜いていたのでしょう。 サルトルといえば哲学者であり、小説家であり、社会問題に真摯に向き合い、自分の主義主張を鮮明にし、フランス国内では大きな影響をもたらした人物です。1980年に生涯を閉じましたが、サルトルといえば「実存主義」で、多くの日本人には馴染みがあるのではないでしょうか。「実存は本質に先立つ」とサルトルは主張し、「人間はみずからがつくったところのものになるのである」と言っております。人間はまず実存し、主体的に生きることで、その人間の本質が形作られるということでしょうか。サルトルはペーパー・ナイフを例に挙げ分かり易く説明しております。職人はペーパー・ナイフの用途を考えて製造します。この物体(ペーパー・ナイフ)が何に役立つかも知らずに造る人は考えられないので、この場合には、「本質は実存に先立つ」と言えます。人間が神によって創造されたとするなら、ペーパー・ナイフと同じ状況になりますが、サルトルは無神論的実存主義の立場から、「人間は最初は何ものでもなく、あとになってはじめて、人間になるのであり、人間はみずからがつくったところのものになるのである…………..人間は苔や腐蝕物やカリフラワーではなく、まず第一に、主体的にみずからを生きる投企なのである云々」と言っております。さらに、「人間は自由である。人間は自由そのものである。もし一方において、神が存在しないとすれば、われわれは自分の行いを正当化する価値や命令を眼前に見出すことはできない。こうしてわれわれは、われわれの背後にもまた前方にも、明白な価値の領域に、正当化のための理由も逃げ口上ももってはいないのである。われわれは逃げ口上もなく孤独である。そのことを私は、人間は自由の刑に処せられていると表現したい」。この彼の主張は、自由というものは、その人間の運命はその人間自身が決定するということでしょうか。キャロラインのメールのさりげない言葉から、サルトルの『実存主義とは何か』を私の小さな書庫から引っ張り出してみるという、知的快にあやかることができました。 

 さて、マルクス・ガブリエルといえば、1980年生まれの哲学者で、2009年にボン大学教授となり、現在ではマスメディアも注目の新鋭の学者です。『なぜ世界は存在しないのか』で、新実在論を提唱しています。個人的には発売されるとすぐに購入しておりますが、残念ながらまだ説明できるほど読んでおりません。最近ではNHK が「欲望の時代の哲学2020 マルクス・ガブリエル NY思索ドキュメント」を5回シリーズで放映しております。昨夜が最終回だったのですが、「哲学は思考のための一つのツールだ。その思考の先にそれぞれの自由がうまれる。自由はいまあなたの中にある。よって運命とは自由を意味します。運命は必然ではなく、自由だ。だれもが運命をもっている。あなたが運命を見出せるか否かが問題です。問題はあなたが運命を感じているか否かです。あなたの人生で深く意味のあること、出来事に、より深い意味があると思えたとき、あなたは自分自身に近づいているのです。運命は必然を意味しない」というようなことを言っていました。

 サルトルにしてもガブリエルにしても通底している概念は同じかなあ。「思索、思考、考える」ことを放棄したら自分の実存、運命さえも危うくなるような、やっぱりこんな時代だからこそ自分に向き合い、社会の一員としてのあるべき自分を求めていきたいものです。 

参考図書:サルトル『実存主義とは何か;実存主義はヒューマニズムである』人文書院    

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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