「金融緩和」の基礎の基礎:もうひと踏ん張り日銀の異次元緩和政策に迫ってみる

 前回のブログで整理しているが、今や日銀(日本銀行)は大量の国債買いばかりでなく、株(上場投資信託から不動産への投資信託)の購入と、いくつもの会社の大株主となっている状態である。国債残高はGDPの2倍(約1000兆円)まで膨れ上がり、国債の買い手(金融機関)を上回る国債の残高(量)であるので、当然のことながら金利の高騰を招くはずであるが、現実には金利は上がっていない。これは日銀が大量の国債買いをしているからである。

 ここで、国債(債券)の利回りのシュミレーションをしてみる。例えば、額面が100円で年1%の利払いがある残存1年の債券を95円で買うと最終利回りは6.315%になる。もし105円で買うと-3.81%になる。すなわち、市場価格が上昇すると利回りは低下する。*利回りの計算は「債券の利回りサイト」https://keisan.casio.jp/exec/system/1431312140を使うと、コンピューターが一瞬にして計算してくれる。今日の(2019年8月10日午前2時5分)10年物国債は-0.218である。マイナス金利であるということは、金融機関は損を承知で購入したことになるが、日銀が10年満期前に購入するであろうという見込みが高い(異次元緩和を止めない限り)ので、より高い価格で売り抜けられる可能性を見込む。ここにマイナス金利の債券を買う経済的合理性はある。例えば、金融機関が105円で購入した債権を日銀が110円で買ってくれるとなれば、国債が満期となっても、戻ってくるお金は買った金額を下回るので、日銀は損を承知で国債を購入しているということになる。さらに、満期を迎えた国債は確かに政府から償還されるが、その償還は借換債の発行によってなされるので、満期債が借換債で置き換えられるだけであり、政府に痛みはない。ここに「日銀による財政ファイナンス」と言われても仕方がない状態が産まれているのである。もし日銀が将来に、日銀保有の国債を売却するとなると、購入価格より市場価格が低くなっている可能性が高いので、そうなると金利が高くなり損失が生じる。現在はまだ国債の貨幣化には至っていないが、金融機関からの支払い要求があれば紙幣を刷るしかない。この行き着く先はインフレであろう。「日本が財政危機に陥った場合、国債はどうなりますか」という問いに財務省(ホームページ参照)は「仮に財政危機に陥り、国が信認を失えば、金利の大幅な上昇に伴い国債価額が下落し、家計や企業にも影響を与えるとともに、国の円滑な資金調達が困難になり、政府による様々な支払いに支障が生じるおそれがあります。そうした事態を招かないよう、財政規律を維持し、財政健全化に努めていく必要があります」と述べている。

  前々回のブログで「日本はMMTの理論を実行しているわけではない」との安倍総理の発言に触れたが、この理論は「自国の通貨を持つ政府は、借金がどれだけ増えても、返済に必要な分だけ新たに通貨を発行できるから、政府は借金の残高を気にせず、格差の是正や社会保障などにどんどんお金を使ってもよい。ただしインフレには注意が必要だ」という。ニューヨーク州立大学のケルトン教授が「日本がMMTの実例だ」と述べたことで話題になっている。MMTとはModern Monetary Theoryの略で、現代貨幣理論と呼ばれている。

  一国民として、国の財政政策に関心を持ち、各々が経済を読む目を養うことで、政治家や財務官僚の政策運営に規律を持たせることができよう。景気の先行きは危ぶまれ、地政学的リスクが高まっている現状の中で、世界的金融緩和政策がとられている。比較的安全な資産である日本の国債や為替が外国人投資家のターゲットとならないとも限らない。円高への行き過ぎも警戒しなければならない、実に不安定な世界経済の渦の中にいることは認識しておきたい。

 参考図書: 野口悠紀雄『日本経済入門』 講談社現代新書 

      池上彰『改訂新版 日銀を知れば経済がわかる』平凡社

 参考資料: 日本経済新聞2019年7月31日「債券利回り」 朝日新聞2019年7月24日

       日本銀行ホームページ 財務省ホームページ

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ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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