「金融緩和」の基礎の基礎:日銀の異次元金融緩和政策ってなんだ(2)

 前回のブログで日銀黒田総裁の金融政策の一つである「量的緩和」すなわち、日本銀行(以下、日銀とする)は金融機関が日銀に開設している当座預金の量を増やすために、金融機関が保有している国債の買い取りを積極的に行い、金融機関が自由に使えるお金の量を増やす、結果として、金融機関は、利子のつかない当座預金にお金を預けておくよりも企業等への貸し付けを増やしていくことで利ザヤを稼ぎ、市中に出回るお金の量と流れを活発にするであろうと日銀は試みたが、金融機関は国債の売却資金のほとんどを当座預金口座から引き出さずに預けており金融市場は活性化していない状況である。

 今回は「質的緩和」と「マイナス金利政策」について整理してみる。 現在日本銀行が行っている質的緩和政策とは、長期国債を買い入れることや、上場投資信託(ETF)などのリスク性のある資産を買い入れ、さらにその買い入れ額を拡大していこうとする政策である(一般的に「量的・質的緩和政策」と言われているので、個別的に整理しようとしたことで説明が重複してくるが)。さて、資金の貸し借りの期間が1年超の金利を、長期金利というが、長期金利の代表的なものは10年物の国債利回りとされている。当然のことながら、日本銀行は景気減速懸念が強まると政策金利を下げ、お金を借りようとする企業や個人を刺激しようとする一方で、国債は株などより価格の変動幅が小さいので景気後退時には買われやすいこともあり、債券価格の上昇による金利低下も起こる(国債の買い手が多いということは債券価格の上昇を起こし、金利は下がる。低い金利でも比較的安全な国債を買おうとするので)。 日本銀行は2016年1月に金融機関が日本銀行に開設している当座預金の一部にマイナス金利(-0.1%)を適用した(マイナス金利は、金融機関が日本銀行の当座預金口座に預金しておくほど預金が目減りすることを意味する。結果として、世の中の金利全般の低下を促すことで、個人や企業がお金を借り易くする環境を作り出す。実際、マイナス金利政策の発表は、国債の金利の低下や、住宅ローン金利の引き下げを促した)。この政策の導入は、日本銀行が長期国債の買い入れ金額の増額で金融市場の国債需給関係がひっ迫し、このような状況が続くと買い入れる国債が枯渇しかねない。そこで金融緩和継続のため、その手段を量から金利に変更し、緩和を進めるためにマイナス金利を実施したのである。しかしながらマイナス金利に伴う副作用(銀行収益の悪化や保険・年金などの運用利回りの低下等)を回避するため、「長短金利操作」(2016年9月)がとられ、短期金利(-0.1%)とともに10年物国債金利(ゼロ%で誘導)を金融政策の操作対象とし、長期金利の下げ過ぎを修正しつつも金融緩和を推し進める政策をとった。しかしながら金融市場における国債取引の停滞等で、2018年7月の金融政策決定会合で、長期金利を「ゼロ%程度」に誘導する目標自体は維持しつつ、変動幅の拡大を容認し、黒田総裁は会合後の記者会見で、従来の倍に相当する「プラスマイナス0.2%程度」を念頭としていることを明らかにした。

  黒田総裁の金融政策は米中貿易摩擦等による世界景気の減速により試練を迎えている。米連邦準備制度理事会(FRB)は2019年7月30~31日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)で、アメリカの政策金利を、「年2.25~2.50%」から「年2.00~2.25%」に引き下げた。このような状況の中、8月6日午前の国内債券市場で長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは一時、約3年ぶりの低水準となるマイナス0.215%まで低下(債券価格は上昇)した。米中貿易摩擦の激化が世界景気の減速を強めるとの警戒感から、投資家のリスク回避が10年物国債購入を押し上げたのであろう。米欧の利下げが続くなかで、日銀が金利低下を止めると円高が進行し、自動車や電機などの輸出産業の業績悪化から経営者の投資意欲を減退させ、株価の下落が個人消費を抑え込み、内需の縮小につながり、物価の押し下げ要因になりかねない。実に難しいかじ取りを迫られているのである。

  これまでは国債と政策金利に焦点を絞り、量的質的緩和を整理してみたが、このほかにも、ETF(Exchange Traded Funds; 上場投資信託; 日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)等の動きに連動し、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託)、J-REIT(Real Estate Investment Trust; 証券取引所に上場されており、不動産に投資を行う)などの大規模な資産購入をして、大規模な緩和政策を進めている。黒田総裁はETF(株式購入)を2013年約1兆円、2014年に約3兆円、2016年以降は約6兆円規模で購入を拡大していき、2019年3月末で、その保有額は28兆9136億円となった。東京証券取引所第1部に上場する企業の時価総額の4.8%を占めている状況である。こうした日本銀行によるETF買い入れは株価の下落を下支えし、株高の場合には含み益が出るが、世界経済の先行きが危ぶまれているような状況では、株式市場を下支えしている公的マネーの行方も楽観視できないかもしれない。さらに、日本銀行によるETFの巨額買い入れを通じての株式市場への介入は、投資家の行動や判断に歪みを与える可能性がある。株価の下落局面では「日本銀行による買いが入る」と投資家は認識するようになり、株価の形成や市場参加者の株の売買行動を歪める。同様に、日本銀行の年間約900億円に上るJ-REIT買いも株式市場に何らかの影響をもたらしていると思われるが、こうした大量の資産購入(公的資金の株式への投入)を金融政策の手段としていることも認識しておきたいものである。

  個人的に、黒田日銀総裁の異次元の金融緩和政策について整理してみようとしてみたが、実に手強い相手であった。日本銀行のどなたかに、しっかりと解説していただきたい心境である。独学して専門的知識を身につけた偉人にあやかりたいものである。建築家の安藤忠雄さんは独学で、建築界のノーベル賞と呼ばれる、プリツカー賞を受賞し、東京大学建築学科教授となり、「世界のANDO」といわれるまでになった偉人であるが、どれだけの不屈の精神を持っておられるのだろうか。もしかしたら「地頭がいい」のかもしれない。  

参考図書:前回のブログに掲載した図書を参照

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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