「金融緩和」の基礎の基礎:日銀の異次元金融緩和政策ってなんだ(1)

 第二十回のブログ掲載からはや一か月が過ぎた。言い訳は無用とは知りつつも、家庭の主軸として、職業婦人として、その間隙を縫うように大切な友人に書面をしたためたりと、何かと慌ただしく毎日が過ぎていく。ニュス時事能力検定1級は惨敗を喫したが、その副作用として、ますます、政治、経済への学びの意欲が増してきた。さて、今回は、日銀の国債保有残高の増加は金融の専門家の間では「日銀による財政ファイナンスだ」とか、安倍総理の「日本はMMTの理論を実行しているわけでない」発言など、小難しい表現が使われていることもあり、黒田日銀総裁の異次元の金融緩和について個人的に整理してみた。

  そもそも日本銀行とは何であろう。日本銀行は政府の一部ではなく、法律的には政府が設立を認可した「認可法人」に当たる。日本銀行の資本金は一億円で、このうち、政府の出資比率は55%、民間の出資比率は45%、そのうち個人が38%となっている。とはいっても株式会社の株主とは異なっており、株主総会も出資者による議決権の行使も認められていない。日本銀行の最高意思決定機関は政策委員会であり、黒田総裁(2013年3月以降)以下八名の委員で構成されている。政府との関係では、金融政策については日本銀行に独立性が与えられ政策委員会が決定することが保証されている。ただし、政府代表委員が内閣府と財務省から参加し、政府の意見を述べることができるほか、政府には議決延期請求権、議案提出権も与えられている。業務の中核は銀行券の発行であるが、銀行券(紙幣)は国立印刷局で製造され(紙幣には必ず国立印刷局と記載されているので確認してみてください)この段階では一枚の印刷コストおよそ20円の精巧な印刷物にすぎないが、金融機関が日本銀行に保有している「日本銀行当座預金」から引き出した段階で「お札」に昇格する。金融機関が持ち帰った銀行券(お札)を預金者がATMなどを通じて引き出すという形で世の中に流通していく。一方、発行者が政府である貨幣(硬貨)は造幣局で製造されている(硬貨には必ず日本国と刻字してあるので確認してみてください)。*翁邦雄『日本銀行』参照 

 次に、金融政策についての基本を押さえておく。前述したように、金融機関(都市銀行、地方銀行、信用金庫、証券会社、保険会社等)は日本銀行に預金講座を開設しているが(日本銀行当座預金といわれ、われわれが銀行に預金口座を開設しているようなものである)、金融機関の場合は主に国債という形で預金している。日本銀行が金融機関の持っている国債を買ってその代金を金融機関の日本銀行当座預金口座に振り込んだり(買いオペと言われている)、逆に日本銀行保有の国債を売ってその代金を金融機関の日本銀行当座預金口座から引き落としたり(売りオペ)している。各金融機関は日本銀行当座預金を介してわれわれ預金者への支払いの準備金に充てたり、金融機関同士の決済資金に充てている(例えばA銀行からB銀行にお金を振り込む場合を想像する。ここでは現金が直接動くわけではなくA銀行とB銀行が日本銀行に持っている当座預金の口座を介してお金が動く。これは日銀ネットといわれ、日本銀行と各金融機関が結ばれたコンピューター・ネットワークによって資金が流れている)。よって、日本銀行が買いオペすると(金融機関の国債を買い取っていくと金融機関の日本銀行当座預金は増える)金融機関が全体として持っている日本銀行当座預金量は増えるから、短期金融市場では、お金の借り手は減り、逆に貸し手は増えるので(借り手<貸し手)金利は低下する。すなわち、金融市場での金利が下がると、金融機関は低い金利で資金の調達ができるので、企業等への貸出においても、金利を下げることができる。理想的には、企業が低金利を利用して資金を借り、設備投資等に利用してくれれば、景気が刺激され物価が上向きに(インフレ誘導ができる)なる。しかしながら、現在の日本の企業は資金需要が弱く、日本銀行による買いオペ(国債の買い取り)は物価上昇をもたらしていないのが現状である。

  さて、国債に関して整理しておく。国債は一言でいえば国の借金であるが、財務省がその年の国債発行計画(発行額、入札日等)を策定し、国債を購入しようとする金融機関は入札に参加する(当然のことながら、個人向け国債も発行されている)。こうして購入した金融機関の国債は日本銀行の各金融機関の当座預金で保管されているが、日本銀行が購入したり、金融機関の間で売買されたりする。2019年度の新規国債(予定)はおよそ32.7兆円であるが、高齢者数の増大と寿命の延び、医療技術の進展に伴う医療費の拡大、年金給付者の増加等の要因による社会保障費関連の増大や、税収の伸び悩み等で基礎的財政収支(2019年度税収入およそ62兆円-基礎的財政収支およそ76兆円=-6兆円 *基礎的財政収支とは社会保障費 地方交付税 公共事業 防衛費などの基本的な支出の総和)は赤字であり、借金(国債発行)に頼らないわけにはいかない。国債発行残高は、年々積み上がり、2019年度末でおよそ900兆円となる見通しである。この残高をすべて償還するには15~16年分の税収をすべてつぎ込むこととなるが(900兆円÷税収およそ60兆円=15)、それは不可能なので、実際には国債は償還されない可能性が高い。当然のことながら国債には利払いが必要であることも忘れてはならない。2019年度の国債利払い費はおよそ8兆円、満期になった国債の償還費はおよそ15兆円、合わせて23兆円となっている。 

 さて、財政ファイナンスとは何であろうか。国債残高が増えれば各金融機関が保有しきれなくなり、金融機関同士の購買意欲がそがれるので、金利を上げてでも購入してもらいたいと動くはずであるが、現実には金利の高騰は生じていない。それは日本銀行が著しい勢いで国債を買い上げているからである。現在の日本銀行の国債保有割合はおよそ45%であるから400兆円強となろう。黒田総裁は日本銀行が供給する貨幣の量を増やすため、2013年には国債50兆円、2014年から16年中期にかけて毎年国債80兆円のペースで金融機関から買い続けた(量的緩和)。新規国債の発行は2016年は34兆円にすぎないので、金融機関の日本銀行の当座預金総額は増加するが(国債保有は減少)、並行して日本銀行が保有する国債が増大していくという結果を招いた。全体としての国債残高は増加しているのに、金融機関の国債残高の減少かつ金融機関の日本銀行当座預金残高の増加という異常な現象であった。日本銀行当座預金は支払い要求があれば日本銀行は紙幣を刷って発行しなければならない状況をつくりだした。日本銀行による大量の国債引き受けは、第二次世界大戦中に日本政府が戦費を賄うために国債を大量に発行し、発行した国債をそのまま直接日本銀行に買い取らせた政府紙幣のような状況を生み出している懸念がある。この教訓から、政府発行の国債は入札され金融機関が買い取り、それを日本銀行が購入できる仕組みになってはいるが、現在の状況は政府の借金の肩代わりを日本銀行がしていると誤解されても仕方がないような「日銀による財政ファイナンス」を生じさせている。  

 本来ならば、短期国債、長期国債の買い取り等の詳しい説明が必要であるが、枝葉を切り落とし大胆な整理に終わっている。量的緩和について語るには、無謀な行為であったかもしれない。次回は質的緩和とマイナス金利政策に迫ってみる。

 参考図書:野口悠紀雄 『日本経済入門』講談社現代新書 

     翁邦雄 『日本銀行』ちくま新書  

     北坂真一 他 『黒田日銀 超緩和の経済分析』日本経済新聞出版社  

     池上彰 『改訂新版 日銀を知れば経済がわかる』平凡社新書 

財務省ホームページhttps://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/fy2019/issuanceplan181221.pdf Bloomberg https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-03-19/POLALM6JIJV001

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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