春風を以って人に接し、秋霜を以って自ら粛(つつし)む

 佐藤一斎のことばです。佐藤一斎は江戸幕府の最高峰である「昌平坂学問所(しょうへいざかがくもんじょ)」の塾長として武士の教育に携わった儒学者で、渡辺崋山(武士であり蘭学者であり画家であった)ら多くの弟子を育てました。「女性のための学びの広場」の考えの基本は、一斎の「少にして学べば壮にして為すこと有り。壮にして学べば老いて衰えず。老いて学べば死して朽ちず」にあります。

 さて、今回で二十回目のブログとなりました。最近は積読(つんどく)状態が続いており、いわゆるネタ切れです。折に触れ書き記している雑記帳をパラパラめくっていたところ、「春風を以って人に接し、秋霜を以って自ら粛(つつし)む」の文言に気持ちが引き付けられました。「粛む」はおごそかに身を引き締め、かしこまるの意ですが、「春風のような柔らかな気持ちで人に接し、秋霜のような厳しさで身を引き締めて自分を律する」なるほど、今の自分に改めて言い聞かせたい名言です。  さて、今回はネタ切れ状態なので、過去の記憶をたどりながら「ベトナムコーヒーとグローバリゼーション」について発信させていただきます。およそ10年前にさかのぼりますが、コーヒー好きが転じて、ベトナムに行き、ベトナムコーヒーに関する情報収集のため、アジア経済研究所を訪問したことが思い出されます。ベトナムはブラジルに次ぐコーヒー豆の生産国ですが、品質がそれほどでもないので主にインスタントコーヒーや缶コーヒーとして使用されています。

  ベトナムは、中国の植民地支配から独立後、勢力拡大をしていきますが、タイとベトナムからの挟撃を受けていたカンボジアがフランスに保護を求めたことから、1885年にフランスの植民地となり、1940年には日本軍の進駐、1945年のホーチミンの独立宣言とともにフランスとの戦争、1954年には北緯17度を挟んでの分断で、北部の共産主義、南部はアメリカの支援を受け、ベトナム戦争に突入しました。ベトナム戦争終了後、南北が統一されベトナム社会主義共和国の誕生で国家建設に着手したものの、1978年のカンボジア侵攻等で国際社会から孤立、さらにソ連からの援助の打ち切り等で経済的に疲弊しました。この経済的困窮を打開するため「ドイモイ政策」がとられ、外国からの投資の奨励や農地改革等によって農業生産の向上を加速しました。

 中でもコーヒーは1990年以降大幅に増産され、2000年には世界第二位のコーヒー豆輸出国となりました。豆の生産は主に中央高原地帯のダクラク省で栽培されています。ダクラク省の農園数も2000年の3589から2004年には9450へと増加し、ダクラク省のコーヒー作付面積は1990年のおよそ7万ヘクタールから2000年には25万ヘクタールにまで拡大しております。

  最近のベトナムは電子機器や電化製品等の製造拠点として、海外からの投資が進んでおり、一人当たりのGDP も2000ドル以上に達してはいますが、コーヒー豆の小規模生産者の生活はそれほど豊かにはなっていないといわれています。日本をはじめとする経済的に豊かな国々のカフェブームの一方には、経済の恩恵にあやかることができない生産者がいる現実にどのように向き合えばよいのでしょうか。このような生産者がいつまでたっても豊かな国々の消費者のために「換金作物」を提供し続ける構図は改められなければならないとおもいます。「グローバリゼーションはすべての人々を巻き込み、そのプロセスは複雑であり、矛盾あるいは相反する今流行の様式である」とギディンズは指摘し、「ある人々には新しい自由をもたらしているものが他の人にとっては招かざる、残忍な運命をつきつける」とバウマンは言っております。一次産品に特化した開発途上国の生活の安定が、われわれの消費者意識に委ねられていることを認識することも、経済の不均衡な構図を改善するかもしれないとおもいます。コーヒーは投資家の思惑による操作、天候によるブラジルの収穫量の変動、さらに、その流通経路の多重性によって生産者に思いを馳せることが難しい作物です。

  「春風を以って人に接し、秋霜を以って自ら粛(つつし)む」そんな消費者でありたいとおもいながら、一杯のコーヒーで一息つきながら。

 参考図書:アンソニー・ギディンズ『暴走する世界』ダイヤモンド社   

     ジグムント・バウマン Globalization

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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