「学ぶということ」の楽しみ

 「学ぶ」ことへの意欲が日増しに強くなってきた。余りにも自分の「知らない」ことが多いことに、日々狼狽している。ちょっとした会話の中にも、新聞を読みながらも、空を見上げても、庭の草むしりをしながらも、疑問と好奇心が湧き上がる。年齢を重ねてきて、やっと「学びの喜び」の域に到達した。「わが人生、勿体ないことをしてきた」この自戒の念が、学びへの推進力となっているのであろう。

  『「知の技法」入門』(小林康夫、大澤真幸著)の両氏の対談を引用、編集しながら拝借すると、「知は知識ではなく行為だ。もはや「学ぶこと」は知識を獲得したり、それを生産したり、伝達したりすることではなくて、なによりも「行為することを学ぶ」ことでなければならない。知識という対象にではなく、主体的な行為にこそ「知」の本質がある。読み返したり、思わず線を引いたり等の精神のレベルでの運動がある。知というのは行為を通して生成されてくるのではないか。学校や教科書では、すでに生成し終わったところ、すでに出来上がったところを教える。行為を通じての生成、という部分が終わってしまっているところから始めている」。

 二乗すると2になる数は√2と学校では教わるが、大澤氏はそのことがなんとなく腑に落ちない氏の娘さんにこのように説明をしたそうである。 方眼紙を使って一辺1の正方形(面積は1)、一辺2の正方形(面積は4)を書かせる。面積2の正方形があるとしたらその一辺は何センチか計算していく、1.1×1.1=1.21 1.2×1.2=1.44 1.3×1.3=1.69 1.4×1.4=1.96 1.5×1.5=2.25のように。次に1.4と1.5の間だから、1.45にしてみたりと繰り返していく。こうしてできる限り下の桁まで計算して、面積2の正方形の一辺に肉薄していく。こうするといつまでやってもちょうど面積2にならないということがわかってくる。こうして面積2の正方形の一辺の長さは分数や少数ではどうしても表すことができないが、確かに実在することは分かる。よって、苦肉の策として「二乗すると2になる数」という変な数字があることが納得できる。なるほど、私も今、ストンと腑に落ちた。何しろ2の平方根は√2とひたすら覚えてきましたので。

  朝日新聞の「ひろば声」に高校生(17歳)が「新聞で読んだこと日常に現れた」という見出しで投稿している。「今年1月を機に私はあることをはじめました。それは新聞の音読です。以前は母に「読みなさい」と言われ、ざっとしか読んでいませんでした。今は毎日1時間ほどかけて隅々まで読み尽くします。最初はただ読むだけでしたが、一か月くらいたつと変化しました。新聞で読んだことが日常に現れたんです」友達との会話や授業の中で、読んだことが出てきて気持ちが新聞に前のめりになったということ。17歳になりやっと新聞の良さが分かったとのこと。「私は、同世代の人たちに声を大にして言いたいです。新聞を読まないなんてもったいない」と、この高校生は力説している。(「 」の部分はそのまま抜粋)私事になるが、例えば複雑な中東関連の知識は丁寧に新聞を読むことで身についた。政治・経済・環境・貿易・格差等の幅広い知識は新聞を丁寧に読むことの繰り返しで培われたといっても過言ではない。

  「知識とはどういうものか」の中での西研氏の考えを引用させていただく。「ドイツ語だと知も知識もWissenですが、日本語だと知と知識ではかなり語感がちがいますね。「知識」というと内蔵され蓄えられたもの、という感じ。「知」というと、もう少し生きて動いている感じがしますね。ドイツの哲学者ヘーゲルの考えだと、知は単なる「蓄え」ではないんですね。人間があることを新しく理解する。それは新たな見方の獲得であるわけですが、そうした見方を獲得することによって新しくなにかが「できる」ようになる、そういう風に考えています」。

 「学ぶこと」は受け身的な断片の堆積ではなく、そこには「行為する」私がいるのだと、学びの可能性に心弾ませている。

    参考図書:小林 康夫 大澤 真幸著『「知の技法」入門』河出書房新社 

        刈谷 剛彦 西 研著『考えあう技術』ちくま新書  

        朝日新聞 「ひろば声」 2019年 6月1日

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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