IT立国エストニア再考

 九州(36.750㎢)より少し広いエストニア(45.230㎢)の人口はおよそ130万人(長崎県の人口約143万)で、首都タリンの人口は約45万人である。民族はエストニア人が約53%、ロシア人が約40%、ウクライナ人が約4%である。歴史的にエストニアは長年隣国ロシア(ソ連)の支配下にあったので、ロシアの軍事介入によってウクライナ領クリミアがロシアに併合された(2014年)ように、旧ソ連地域にとってはロシアの脅威を感じないわけにはいかないであろう。ソ連解体によってロシアの外側に「取り残された」ロシア人への差別を理由に、ロシアが国境線の変更を要求するのではないかという指摘はかねてからあったが、実際にロシアがソ連から独立した国家の領土を併合したのはクリミアが初めてである(JETROアジア経済研究所)。しかしながらエストニアはこのような地政的課題と1991年の独立による経済的困難(社会主義から資本主義に移行したことによる経済危機)から、一気にIT戦略に舵を切り「電子政府」を実現させ、行政サービスの99%が年中無休で利用でき、大幅な財務の効率化を達成した。さらにイーレジデンシー(e-Residency:仮想住民)によって外国人を「仮想住民」として認め、仮想居住権を与え、日本に居ながらにしてエストニアの電子政府を体験でき、オンラインで法人を設立し、EU加盟国である5億人の市場に参入できるというものである。こうしてITを利用した産業の育成、国境を越えて活躍する高度なIT人材を取り込んでいるエストニア。 

 翻って日本はいまだにハンコと煩雑な書類による事務業務、手薄の起業支援、製造業が経済をけん引していた時代のままの旧態依然とした教育(カリキュラム)、そして自主性よりも協調性を重んじる風土が根付いている。プログラミング教育も入口に立ったばかりの日本、AIやロボット工学、コンピューターサイエンスなど未だに実感がない。このような状況では急速に進むデジタル化の波に乗れないであろう。 

 では実際に、日本はどのくらいの予算を技術革新(R&D:研究開発費)に使っているのであろうか。2018年の日本の科学技術予算総額は過去最高の3.8兆円(ちなみに2018年度防衛予算は5兆1911億円)、中国は2016年では22.4兆円、米国は2017年で14.9兆円であるが、明らかに日本は国力に見合った投資ができていないといえよう。ユニコーン企業(評価額10億ドル以上で設立10年以内の非上場であるテクノロジー企業)数を見てみると世界にあるユニコーン企業は237社であり国別にみると、米国118社、中国62社、イギリス13社、インド9社、エストニアは4社、日本はゼロである。エストニアではスカイプ出身者が自ら投資家となって次世代の成長産業(AI,ブロックチェーン技術、バイオ、ロボット、ソフトウェア、eコマース等)に投資をして育てていく。エストニアは小国であるからグローバルに市場を展開し、海外の有力投資家と積極的に関係を築き事業を行う。さらにスタートアップ企業を応援する支援団体があり、政府も積極的に応援している。野口悠紀雄氏によると「ユニコーン企業が日本に生まれない大きな原因は、規制緩和が進んでいないことである」。UberにしろAirbndにしろフィンテックを導入するにしても、白タクは法律違反であり、民泊は旅館業法に触れ、金融業界に至ってはさらなる規制緩和が必要である。「政府は規制緩和を打ち出してはいるが、既得権者の利益を覆すようなものではない」と、野口氏は述べている。 

 エストニアでは小さい頃からビジネス感覚を身に着ける教育が行われ、プログラミング言語のジャバ(JAVA)でのプログラムの作成も小学生から学習する。そのため、IT技術に強い若者が多く、スタートアップの原動力となっている。また、海外からエストニア企業に就職する人、エストニアで起業する人に対してのビザ発行が迅速で、エストニアに魅力を感じる若者を各国から呼び寄せるための国の体制も強力だ。更に、小国ゆえに、外国語教育にも力を入れている。小学校1年生より母国語(エストニア語)以外に2カ国語を学習するため、若年層の大半は英語でのコミュニケーションに問題なく、全てのスタートアップでは英語が社内公用語になっているという(JETRO 二本貿易振興機構ホームページから抜粋)。 

 労働市場の縮小、消費の低迷、旧態依然とした教育の日本、その一方で超高速通信の5Gの幕開け、AI、ロボット、ブロックチェーン、ゲノム革命、電子政府等等のデジタル革命の到来を実感できていない現実がある。いよいよ私たちのマインドをリセットするしかないであろう。

  参考資料&図書:https://ec-orange.jp/ec-media/?p=23760 

         JETRO日本貿易振興機構 JETROアジア経済研究所   

         科学技術・学術政策研究所  

         孫泰蔵監修 小島健志著『ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけた                   つまらなくない未来』ダイヤモンド社          野口悠紀雄著『日本経済入門』講談社現代新書

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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