イエメンに思いを馳せて

 イエメンは中東のアラビア半島南端部に位置する人口約2700万人のイスラム教国家であり、コーヒー発祥の国と言われ、コーヒーの有名な種類であるモカ・マタリは、イエメンの積出港モカと生産地マタリの二つの地名を並べた名称である。エチオピア原産のコーヒーがイエメンに伝来し、17世紀中期にはイエメンのコーヒー文化はたちまちヨーロッパに普及し始めていったが、当時コーヒーの唯一の供給源は依然イエメンだけであり、世界市場に独占を誇っていた。コーヒーは高値を呼び、イエメンは潤う。幸福なアラビアの楽園時代であった。イエメンの積出港はモカだけではなかったが、「モカ」がイエメンのコーヒーを代表することになったのは、モカ港だけがヨーロッパの船舶が直接寄港を許され、買い付けを許可されていたという、ヨーロッパ中心主義の歴史観によるそうだ(臼井隆一郎『コーヒーが廻り世界史が廻る』参照)。最近あまりモカ・マタリにお目にかからないような気がしているが、やっぱり内戦の影響が出ているのであろうか。現在では紅海に面する西海岸のモカは閉港している。

 FAO(food and agriculture organization)の2017年の推計では、世界のコーヒー豆総生産量は9,212,169トンであり、その内訳はブラジル2,680,515トン、ベトナム1,542,398トン、コロンビア754,376トン、イエメンは19,514トンで世界30位であり、イエメンから日本への輸入量は数百トンだと言われている。このような状況ではあるが、イエメン出身の立命館アジア太平洋大学の卒業生が「Mocha Origins」というイエメン産のコーヒー豆を輸入販売する会社を設立したそうである。その社長タレック氏は「コーヒーに夢があることを伝えて、イエメンの社会問題の解決につなげたい」と抱負を語っている(日刊工業新聞2019年2月27日)。

 今朝〈3月27日〉のドイツZDFのニュースではイエメンの悲惨な状況が報告されていた。イエメンは500万人以上の子供たちが飢餓に追いやられており、2400万人の人々が人道支援を待ち続けており、世界最大の人道危機にある世界最貧国となっている。イエメン内戦の発端は2014年に反政府組織が首都サヌアを制圧したことに対する政権側との抗争であるが、現在ではサウジアラビアやアメリカを後ろ盾にする政権側と、イランの支援を受け徹底抗戦する反政府勢力の代理戦争の場となっており解決の見通しが立っていない。後ろ盾となっている米国やサウジアラビア、イランは武器供与や情報提供等を行っており、ますます内戦が激化している。このような状況のイエメンについて学生さんや社会人、シルバー世代の方々に「イエメンという国を知っていますか」「イエメンの内戦知っていますか」と尋ねてみたが、「国名は聞いたことがあるが、どこにあるか、どのような状況にあるか知らない」という人がおよそ9割であった。中東問題と言えばシリアの内戦、イスラエルとパレスチナに関する報道がほとんどであり、イエメンの内戦はそれほど話題になっていない現状である。

 筆者は大のコーヒー好きであり、それゆえ、イエメンの悲惨な実情に心が痛み、何かできないものかと思いを馳せてはみるものの、こうして少しばかりの情報を発信することしかできないのが現実である。幸福なひと時をもたらしてくれるコーヒーを単なる商品としてみなすのではなく、その生産者に思いを馳せてみることで、世界のままならぬ情勢や価格形成の歪な現実(前回のブログで紹介したように)など社会的課題が見えてくるのではなかろうか。相対性理論で有名なアインシュタインの言葉をお借りして次回のブログに繋げたい。

The important thing is not to stop questioning. Curiosity has its own reason for existing.

 大事なことは疑問を持つことを止めないことだ。何かを知りたいという強い願望(関心や好奇心)はそれ自体で存在意義がある。

Curiosity: a strong desire to know about something) Oxford現代英英辞典による定義

 参考図書:臼井隆一郎 『コーヒーが廻り世界史が廻る』中公新書

英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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