ジェイン・オースティン『自負と偏見』で少しだけ英語しませんか
ジェイン・オースティンは1775年に誕生し、難病のため1817年に42歳でなくなっておりますが、いまだに英国で親しまれている女性作家の一人です。中でも「pride &prejudice」は彼女の代表作であり、英国放送(BBC)が製作したこのドラマは大変人気を博したようです。オースティンの生きた時代は「摂政政治」リージェンシーと呼ばれており、その後のヴィクトリア朝時代とは対照的で、奢侈と堕落の時代であったと言われております。当時ジョージ三世が国王でしたが、国王にはポルフィリン症という遺伝性の病気があり、精神に異常をきたしては正気に戻るといった具合であったため、皇太子のジョージ四世が摂政として父の代わりを務めていたそうです。ジョージ四世の贅沢放蕩ぶりと買い物依存症的浪費は上流階級の貴族や大地主、さらには国民全体にも影響を及ぼしたそうです。その一方で、芸術には造詣が深く、高価な調度品やオペラ音楽等にお金を使い、現在の大英図書館の基礎を作ったり、ナショナリ・ギャラリーの発足を奨励したりとそれなりの功績もあったようです。ヴィクトリア朝時代は1837年から1901年までのヴィクトリア女王即位期間ですが、英国の繁栄の時代であり上品な時代と言われておりますので、堕落して節操のない摂政時代とは好対照のようです。英国は階級社会と言われておりますが、この小説でも上流階級である爵位を持つ貴族、大規模な土地所有者であるジェントリー、商業で富を築いた人物、事務弁護士、軍隊の士官など様々な職業の人物が登場し、そこでの階級的偏見が見事に描写してあります。だからこそ、自分と他人の地位に敏感になり、結婚相手を選ぶ際にも慎重にならざるを得なかったのでしょう。特に女性にとっては社会的地位と経済力を確保するためには結婚して専業主婦になるという価値観が浸透していたので、娘を持つ親にとっても婿探しは一大事だったようです。ちなみに、オースティンは生涯独身だったそうです。
早速、この小説の冒頭の部分をご紹介します。 It is a truth universally acknowledged, that a single man in possession of a good fortune must be in want of a wife.
*universally普遍的 acknowledged 認められた possession 所有 fortune 財産
goodはたっぷり、十分にという意味です。
中野好男訳:独りもので、金があるといえば、あとはきっと細君を欲しがっているにちがいない、というのが、世間一般のいわば公認真理といってもよい。
大島一彦訳:独身の男性でかなりの財産の持主ならば、必ずや妻を必要としているに違いない。これは世にあまねく認められた真理である。
小山太一訳:世の中の誰もが認める真理のひとつに、このようなものがある。たっぷり財産のある独身の男性なら、結婚相手が必要に違いないというのだ。
さて、みなさんはどのような訳を試みておられましたか。もう少し読んでみましょう。
However little known the feelings or views of such a man may be on his first entering a neighbourhood, this truth is so well fixed in the minds of the surrounding families, that he is considered as the rightful property of some one or other of their daughters.
中野好男訳:はじめて近所へ引越してきたばかりで、かんじんの男の気持ちや考えは、まるっきりわからなくとも、この真理だけは、近所近辺どこの家でも、ちゃんときまった事実のようになっていて、いずれは当然、家のどの娘かのものになるものと、決めてかかっているのである。
大島一彦訳:そういう男が近所へ引越して来ると、当人の気持ちや考えなどはどうであれ、その界隈に住む人々の心にはこの心理がしっかりと根を下ろしているから、その男は当然家の娘の婿になるものと見なされてしまうのである。
小山太一訳:そんな男が近所に越してきたとなると、当人がどう思っているか、結婚について何を考えているかなどお構いなし。どこの家庭でもこの真理が頭に染みついているから、あの男は当然家の娘のものだと決めてかかる。
*little known ほとんど知られていない 本来はthe feelings or views of such a man may be little known の語順ですが little known という準否定形が前に来たので文の倒置が生じています。 on his first entering a neighbourhood のonは~するとすぐ whenの意味です。 this truth is so well fixed in the minds of the surrounding families, that ~ fixedは固定される so ……..that すぐに固定されthat ~ rightful 当然の property 財産・所有 considered 見なされる as ~として
さて、いかがでしょうか。何度も声に出して読んでみませんか。これも英語の楽しみ方の一つとなれば幸いです。
話は変わりますが、女性参政権と言えば日本は1945年に、イギリスでは第一次世界大戦末期の1918年に30歳以上の戸主の女性に、28年に男女平等(21歳以上)の普通選挙権が施行されました。イギリスは女性解放が早くからなされているような気がしますが、ヴィクトリア時代までは家庭での役割が付与され、日本の社会と共通することばかりです。性別役割分業がなかなか払拭されない日本ですが、イギリスはヴィクトリア朝以降から女性の職場進出が進んでおります。英国の家庭を訪問すると食後のお茶は男性がサービスしています。1979年にマーガレット・サッチャーが首相になっているお国柄、女性が管理職に占める割合もイギリスは約35%、日本は11%とかなり出遅れています。
参考図書: Jane Austen "pride & prejudice" penguin popular classics
中野好夫訳 『自負と偏見』 新潮文庫
大島一彦訳 『高慢と偏見』 中公文庫
小山太一訳 『自負と偏見』 新潮文庫
新井潤美著 『自負と偏見のイギリス文化』 岩波新書
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