「論理的に考える」を問うてみる
「論理的に説明しなさい」とか「これからの大学入試ではますます論理的思考が試される」など論理的という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。野矢茂樹著「論理トレーニング」の序論で野矢氏は「論理とは思考の道筋をそのまま表すのではない。思考の結果を、できる限り一貫した、飛躍の少ない、理解しやすい形で表現する。そこに論理が働く」と同時に、「そのように表現されたものをきちんと読み解く力」と論じている。要するに、「考えをきちんと伝える力であり、伝えられたものをきちんと受け取る力にほかならない」とりわけ、「言葉と言葉の関係を捉える力である」と論を展開している。例えば次の例題に挑戦してみましょう(上述著書から抜粋)。
頭のよい人は思考力がある。
論理力は思考力ではない。
だから、論理力は頭のよい人だけのものではない。
さて、「だから、論理力は頭のよい人だけのものではない」と結論付けることができるでしょうか。みなさん、お考え下さい。答えは否です。頭のよい人と論理力の関係については、まだまったく白紙のままでしかないゆえに、これらの二つの主張から結論を導くことはできない!いやあ、参りました。私には論理トレーニングがかなり必要です。せっかく購入した書籍なので少しづつ折に触れ論理力を磨いていきます。生涯学習は本当にやることいっぱいです。
ところで新井紀子先生と言えば「東ロボくん」で有名です。新井先生は2011年に「ロボットは東大に入れるか」と名付けた人工知能プロジェクトをはじめた才媛です。結論から言えば、英語と国語の偏差値がほぼ50止まりで「東大には桜散る」です。なぜでしょうか。先生のこのプロジェクトの目的は東ロボくんを東大に合格させることではなく、AI(artificial intelligence)人工知能にはどこまでのことができるようになって、どうしてもできないことは何かを解明することであり、AI時代の到来に備えてAIに仕事を奪われないためには人間はどのような能力を持たねばならないかを明らかにすることであったことを先に補足しておきます。東ロボくんは論理的に文章が読めなかったのです。さてここで例題です。以下の情報を読み取って確実に言えることには〇を、そうでないものには×をしてみましょう(新井紀子著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』から抜粋)。
公園に子どもたちが集まっています。男の子も女の子もいます。よく観察すると、帽子をかぶっていない子どもは、みんな女の子です。そして、スニーカーを履いている男の子は一人もいません。
1)男の子はみんな帽子をかぶっている。
2)帽子をかぶっている女の子はいない。
3)帽子をかぶっていて、しかもスニーカーを履いている子供は、一人もいない。
正解は次回のブログでお知らせします。
この問題の大学生の正答率は64.5%で、国立Sクラスでは85%、私大Sクラスは66.8%、私大B,Cクラスでは50%を切ったそうです。どこの大学に入学できるかは、学習量でも知識でも運でもない、論理的な読解と推論の力ではなかろうかと、6000枚の答案を見ているうちに新井先生は確信するようになったそうです。自分のこれまでの学習歴を振り返ってみても、論理的力がつかなかったのはなるほどと実に納得しています。「基礎読解力が低いと、偏差値の高い高校には入れない」ですよね。試験問題の問題文が正確に読めなくては問題が解けないから。だったら、どうすれば読解力は磨かれるのでしょうか。今のところその決定打はないそうです。文頭に戻りますが、野矢先生曰く「表現されたものをきちんと読み解く力」「言葉と言葉の関係を捉える力である」を養うしかありません。新井先生の体験上の仮説では、「読解力はいくつになっても向上する」とのこと。繰り返しになりますが、「読解力や論理的思考の発達は、高校生やそこらの年齢で止まってしまうことはない。いくつになっても成長できるというのが私の仮説です」とのこと。こうして「論理的に考える」を問うてみることで、論理的にという言葉が少しばかり実態を帯びてきたような気がします。もっとトレーニングしてみようという気持ちに私はなりましたが、みなさんはいかがでしょうか。
参考図書:野矢茂樹『新版論理トレーニング』産業図書株式会社
新井紀子『AIvs.教科書が読めない子どもたち』東洋経済
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