「差異」そのものが利益を生み出す社会

今私たちが生きている社会を特徴づける言葉として、「資本主義社会」「消費社会」「情報化社会」「格差社会」などがあげられる。市場に目を向ければ資本家(企業)の利潤追求がグローバルに展開している、利潤追求型競争社会であり、競争が激化している市場おいて資本家(企業)はコスト削減、生産性の向上、そして人員削減などを講じながら生き残りをかけて走っている。その一方でわれわれは労働時間と引き換えに賃金を得ている。消費者側から社会を見れば、魅惑的な商品広告や企業の販売戦略によってわれわれの欲望は掻き立てられ消費の渦の中にいる。消費者は情報にアクセスできるあまたのツールに刺激され、クリック一つで商品が購入でき、スマホで決済という手軽さで、消費に拍車をかけられている状態である。しかしながら、あらゆるところに「格差」が生じている現実が露呈された、富を持たないものに厳しい社会でもある。

もともと資本主義は「差異」をつくり出すことで利潤を獲得してきた。大航海時代には商人は香辛料等をアジアから持ち帰りヨーロッパ諸国で商品利益に変える、すなわち地理的な「差異」による利益の獲得である。次の段階である製造業を主とする産業資本主義においては、資本家(企業)は設備投資をすることで生産性を上げ(10人の賃金労働者で10台の自転車を製造していたが、性能の良い機械の導入で100台生産できるようになる)その余剰価値(儲け)を新たな設備投資に使うことで、生産性を躍的に上げ資本の増強を図っている。しかしその一方で労働者への恩恵は薄く、賃金も抑制させられている。このような産業資本主義においては、労働生産性と賃金の「差異」が利潤を生んでいる。さて、今の社会はどうであろうか。GAFA(グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック)のような巨大情報産業は、われわれの提供している買い物履歴や、写真をアップしてオンラインで公開、Twitterでつぶやいている等のわれわれのリアルな情報を自在に駆使し、デジタル技術や情報量(データー)の「差異」を利用しながら利潤を追求している。このように、資本主義社会におけるこの「差異」が交換価値を持ち、その取引の過程で資本が蓄積されていくのである。

マルクス・ガブリエルが大変興味深いことを書いているのでご紹介したい。ビジネスクラスの方がエコノミークラスより値段が高いのはなぜか。もちろん快適な座席とおいしい食事が提供されるこの快適さにお金を払っているのであろうが(個人的にエコノミークラスを利用したことがありませんが)、現実には「差異」そのものにお金を払っている。なぜなら、エコノミークラスにたどり着くにはビジネスクラスを通過しなければならず、そこには利用者側の微妙な感情が揺さぶられる。ファーストクラスとなれば、ある意味聖域であろう。ビジネスクラスからもエコノミークラスからも見えない。ここに「差異」が生じている。ビジネスクラスの人はファーストクラスにあこがれを抱く、ここにも微妙な感情の揺さぶりがある。それではファーストクラスが頂点かといえば、そうではない。彼らはプライベートジェットを持っていない!では、ドナルド・トランプはなぜ大統領になったんでしょう。彼がアメリカの大統領になる目的の一つは、エアフォースワンに乗ることでした!もしかしたら、トランプさんのプライベートジェットの方が性能のいい飛行機かもしれないのに。こうして人は「差異」にお金を支払っており、今の資本主義はネットを使ったり、巧みな言葉で消費者の欲望・「差異」を駆り立てているのかもしれません。ガブリエルさん曰く「資本主義の最も深い差異は、関与と引き離しの間の差異です。資本主義はその差異を搾取します。マルクス主義理論でいえば、使用価値とその象徴的な交換価値の差異ですね。資本主義は人を物から引き離して、引き離された物に高い価値があるように見せるのです。資本主義の価値はそうやって生まれます。その価値に取りつかれることがフェティシズム(物神崇拝)です。引き離されることで、物は実際以上に魅力的に見えてしまうのです」。

参考文献:マルクス・ガブリエル 中島隆博 『全体主義の克服』 集英社新書 2020年


英語&教養講座の生涯学習「まなびの広場」

ANAで勤務した後、結婚、子育てしながらの専業主婦から一念発起し英語の勉強を始めました。テンプル大学日本校の大学院で英語教育を修了した後、英国のエセックス大学大学院で社会学を修了しました。宮崎市に教室を開設しております。小学5・6年生、中・高生からシルバー世代まで対象の教室です。基礎英語から時事英語、社会を見る眼が養われる教養講座を開講しております。詳細はブログで随時紹介しております。

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